きれいになれる Essay 集
  エッセイ by りえぴん
     雑誌や本、新聞などに掲載されたりえぴんのエッセイ集です。
  「私流・美しい人の条件」
『学習だより』2002 年秋号日本理容美容教育センター pp5-8
     春夏秋冬。あなたはどの季節が好きですか?私は、梅花開く二月生まれだからでしょうか、やはり冬から春にかけての「早春」といわれる季節がお気に入りです。寒い冬が終わりを告げ、木々の芽が膨らみ、日差しが柔らかく辺りを包む、そんな季節。希望が湧いてくる気がします。一方、今年も満喫したばかりの「夏」と答える人もいるでしょう。存分にマリンスポーツを楽しみ、じりじりと焼け付くような太陽を浴びて解放感を味わえる、そんなところが他の季節にはない魅力だと。

 四季折々の風景は、さまざまな表情を見せてくれますが、必ずしも良いことばかりではありません。人々の四季のとらえかたは千差万別です。どの季節も楽しみを与えてくれる一方で、それを苦手と感じる人もいるでしょう。それでもその移り変わりの中で、私たちは生活しなければなりません。人生を四季にたとえることがありますが、私たちは、いろいろな環境の変化に直面して生きています。期待通りの状況ばかりではなく、意に反する出来事が起こることもあるでしょう。そんなとき、どのように対応するか、大げさにいえば生きる姿勢をどう見せるかによって、その人の魅力が決定づけられることがあります。人生という四季の中で、夏には夏の、冬には冬の、生き方、楽しみ方があるということを知り、そしていずれの季節にも自分らしく前向きに輝けるということ、それが「美しい人」であるために最も大切なことの一つです。

 「ポジティヴ・シンキング(positive thinking)」という言葉があります。いわゆるプラス思考というものですが、「楽観的に物事をとらえる」といった単純なものではありません。どんなものにも良い面と悪い面があり、そのどこを見るかによって取り組み方が変わるので、私たちが行動するときにはその視点に大きく影響を受けるのです。悪い面をしっかり理解した上で、良い面を意識する、それが「ポジティヴ・シンキング」ではないでしょうか。「ネガティヴ」な視点でものごとをとらえその考え方に支配されている人よりも、「ポジティヴ」に生きている人の方が、おのずと美しさに近づけるはずです。

 たとえば、顏。目が大きくて口が小さく、鼻が高いのを理想とする人にとって、小さな目は致命傷と感じられるかもしれません。でも、鏡を見るたびにため息をついているようでは「美しい人」とはなりえません。たとえ目が小さくても、まつ毛が長い、あるいは唇がふっくらと優しげである、といった他の部分を生かすことで、いくらでもメイクによってなりたい自分を表現していくことが可能です。長いまつ毛をビューラーでカールして、たっぷりのマスカラでさらに長さを出せば、目が印象的になりますし、また唇に淡い色をのせ柔らかく艶を出すことで女らしいイメージを作ることができます。目が小さくても「可愛い顏」になることは、実は多くの女性が想像しているほど難しくはないのかもしれません。自分の顏の良いところも悪いところも知っていてこそ、短所をカバーして長所を引き出す「ポジティヴ」なメイクができるのです。

 ファッションも同様に、体型の良いところ悪いところを的確に認識していれば、ポジティヴに作り上げることができるはずです。襟ぐりの大きくあいたトップスで鎖骨を見せれば華奢な印象に近づけるし、ルーズなロングスカートよりもジャストサイズのパンツスタイルにハイヒールを合わせた方が、実は大きなお尻が目立たなくて格好いい。そのような方法は、隠すのではなく見せることで逆にカバーできるという考え方によって可能になります。これが「ポジティヴ」なファッションといえるのではないでしょうか。

 さて、ヘア・メイクやファッション・スタイリングなど、美に直接かかわる場面で「ポジティヴ・シンキング」を実践することは容易いように見えますが、実は、生き方そのものが「ポジティヴ・シンキング」によって方向づけられ、それこそが「美しさ」を決定づけているということを見逃してはなりません。私が「この人は美しい」と感じるとき、単に清潔であったり整っていたり、という要素だけでなく、内面から放たれる光、いわゆるオーラのようなものに魅せられることが多いのに驚きます。しばしば「華がある」と表現される要素につながるもの。その人がその場にいるだけでパッと明るくなるような、そして、大勢の人の中にいてもひときわ存在感を示してくれる、そんな光です。それが加わることで「美しさ」が完成する、逆にいえば、それがなければ、それほどまでに美しいとは思えないであろう要因となる光。もちろん生まれ持ったものから発する場合もあるかもしれません。でも、「ネガティヴ」に生きていれば、光は薄れ美しさを輝かせてはくれません。その光は、日々の生活を「ポジティヴ」に過ごしていく中でこそ生まれ育っていくものなのです。

 「ポジティヴ」に生きるために必要なことの一つは、物事のエッセンス(本質)をよく知ることです。自分を知る、メイクの効果を知る、ファッションの意味を知る。知っていなければ何も意思決定できないのは当たり前のことですが、表面的なことだけでなく、そのエッセンスを的確に捉えられれば、柔軟な見方ができるようになります。そのことにより、誰に対しても長所を見て接する、どんなできごとにも諦めない、といった対応が可能になります。エッセンスをきちんと捉えているからこそできることです。「ポジティヴ・シンキング」はエッセンスを知ることから始まります。

 もう一つは、バランス感覚を磨くこと。バランスといっても、アイメイクとリップメイクのバランス、お洋服と靴やバッグのバランス、といった局所ごとのバランスはもとより、メイクとファッションのバランス、自分と相手とのバランス、自分のファッションとこれから自分が置かれる場面とのバランスに至るまで、さまざまです。美しくあるためにはあらゆるバランスを考えた上での「ポジティヴ・シンキング」が必要なのです。

 ある女優さんは、食事に行くとき、まずそのレストランに電話をして壁の色を聞くのだそうです。つまり背景の色に合わせて、お洋服の色を考え、自分が最も美しく見える装いで出かけるための一手間です。レストランでは、ひざの上に白いハンカチを広げ、暗いライティングの下でも顏に光を集めて表情が美しく見えるように工夫します。また、同行される友人とのバランスも大事で、フォーマルからカジュアルまで、テイストが外れないようにと気を遣うとのことです。これは女優さんだから特別なのではありません。「美しい人」がどれほどまでにバランスにこだわるかを示す一つの例といえるでしょう。相対的に何かを決めるということではなく、あくまで、与えられた状況のもとで最も自分を美しく見せるためのバランス感覚なのです。

 このように、内面の輝きが、美しさの大きな要素になるとすれば、「美人は三日で飽きる」という言葉は的を得ていないことがわかります。もちろん、三日で飽きる程度の美しさもあるでしょう。でも、本当に「美しい人」というのは、飽きるどころか、もっとその人のことを知りたくなるほどに奥深い魅力がある人ということになります。そういう意味では、年齢が若ければ美しいともかぎりません。

 永遠のマドンナともいわれる吉永小百合さんは、歳を重ねても美しさが衰えることなく、逆に人間としての厚みと魅力がどんどん増している数少ない女性の一人です。仕事の上では、男性に負けないくらいの強さを持ち合わせ、しっかりとした表現力で多くの観客を魅了してきました。プライベートでもスタッフを含め周りの人からの評価が高いことは有名ですが、人生のいろいろな場面で「ポジティヴ」に生きてこられたことを窺わせます。美人の要素は、一面だけでは計り知れず、多面的に捉えられるべきものですが、吉永小百合さんの「美しさ」は、決して飽きることのないものであるといえるでしょう。それこそが真の「美しさ」ではないでしょうか。

 男性にも「美しい人」はいます。顔形が整っていてハンサムだというだけでなく、立ち居振る舞いが紳士的で、女性への対応もしなやかな人。男らしさ女らしさという枠を超えて、心の広さや奥行きが感じられる男性は「美しい」という形容詞がぴったりです。きちんと自分を持っていて表現できる、そして他者を尊重できる、そんな男性を見かけると本当に嬉しくなります。そこにもやはり、物事のエッセンスを確実に把握しバランス感覚に優れた人に特有の「ポジティヴ・シンキング」が感じられます。

 私は機会あるごとに、美しくなる第一歩は「自分を好きになること」だとお話ししています。自分を好きになり大切にすることができれば、お肌のお手入れやメイク、お洋服のコーディネイトなどを楽しむことができます。楽しめればどんどん上手になり、上手になればもっと好きになる、テニスやピアノのレッスン同様に、「好きになること」「楽しむこと」は美しくなる過程にも欠かせないものです。自分を大切にできるからこそ、「ポジティヴ」なものの見方、考え方ができるようになるのです。

 季節は、そろそろ秋になろうとしています。秋は美味しいものがたくさんあり、虫の音だけの静かな夜には月を眺めてゆったりとした時間を過ごせます。日常の雑事に追われてふと我を忘れかけていると気づいたら、足をとめて、自分を見つめ直し、内面を磨く大きなチャンスにしましょう。その積み重ねがいつの日か、内から放たれる光となって、「美しい人」となる要素を作り出してくれるのですから。

(荒木 りえ)


Copyright(c)2003 BeautyNote.com. All rights reserved.